「イカ墨パスタ」はあるのに「タコ墨パスタ」が無いのはなぜ?

生物

イカ墨とは、イカ自身が捕食される敵から逃れる為に排出する黒い墨を指し、パスタやスリゾット、パエリアなど、様々な料理にも使用されている食材の一つです。

私もイカ墨パスタを食べた事があるのですが、まぁ味は普通のパスタ…ちょっと塩辛さと、すこし味にコクがでるのか……いやすいません、私の舌はバカでして「イカ墨の味はコレだ!!」と感じる事ができませんでした……

そんなイカ墨パスタを食べた時に思ったことなのですが、「イカ墨パスタ」ならぬ「タコ墨パスタ」を聞いたことがある人はいるでしょうか?

正直、イカ墨はスーパーなどでよく見かけますが、タコ墨が売られているのは見たことがありません。

そこで今回は、パスタとか関係なしに「イカ墨」は食材として用いられているのに、なぜ「タコ墨」は食材として用いられていないのかを調査し、その結果をまとめてみました。

タコ墨が食材として使われない理由

タコ墨が食材として使われないのは、きっとタコ墨がイカ墨より不味いからといった情報をよく目にしたし、私も最初はそう思いました。

しかし、実はそうではなく、日本料理学会のデータからすると旨味成分となるアスパラギン酸、グルタミン酸などのアミノ酸を多く含んでいるのはタコ墨の方であり、その量はイカ墨のおよそ30倍近くふくまれています。

更に言えば、あさりなどの貝に含まれている旨味成分「コハク酸」や、水産物や植物の甘味や旨味にかかわる成分「べたイン」もイカ墨のおよそ2倍ほど含まれている。

難しい横文字の成分がでてきて、意味がわからなくなってきそうですが、簡単にいうと「タコ墨は美味いし栄養もある」という事です。

では一体なぜ、そんなタコ墨が料理で用いられる事がないのでしょうか?その理由は下記の通りです。

1.墨の役割と性質の違い

タコとイカが墨を使う目的は「外敵から身を守る」であり、その点は互いに共通していますが、外敵から身を守る為に使用される墨の役割は異なります。

タコ墨は水中の中で墨が拡散し、まるで「煙幕」のようなる為、その墨の役割は「外敵を視界を防ぐ」です。

一方、イカ墨は水中で墨が塊となってとどまり、まるでイカの「分身」のようなものができる為、その墨の役割は「外的を欺く」です。

他にもタコとイカが持つ墨の役割があるのですが、上記の役割からわかる通り、タコ墨は水中で煙幕のように拡散できるサラッとした性質をもっており、イカ墨は水中で墨が塊のようにとどまる事ができるドロっとした性質を持っているのです。

サラッとした性質のタコ墨ではパスタなどの食材とは絡みにくく、味は薄くなる。

しかし、ドロッとしたイカ墨ではパスタなどの食材と良く絡み、味も濃厚となる為、イカ墨は調理に適しているようです。

2.一匹に含まれる墨の量の違い

種類にもよるが、タコ1匹からとれる墨の量はイカの約10分の1とかなり少ない。

更に言うと、タコは水揚げの際に墨を吐き出してしまうらしく、市場に出回る時には墨がほとんど残っていないと言われています。

ちなみに、タコ一杯ではパスタ1人前すら作れませんが、イカの場合はパスタ2人前は作る事ができます。

3.コストパフォーマンスの違い

タコの墨汁嚢(ぼくじゅうのう:墨袋の事)は頭の部分に位置するのだが、基本的に墨汁嚢が残った状態のタコの頭だけが売られている事はない。

その為、タコの墨汁嚢を仕入れるにはタコ一匹を購入する必要があり、更にはその一匹からパスタ一人前も作れない為、大量に仕入れる必要がある。

種類にもよるが、スーパーなどで売られているイカは2杯入りでおよそ400~1,000円、タコは一匹でおよそ3,000~10,000円と極めて高い。(種類にもよるのですが…)

更に言えば、タコの墨汁嚢は肝臓に埋もれている為、取り出すのは極めて困難な為、何匹ものタコから墨汁嚢を破かずに取り出すには高い技術力をもった職人を雇えるだけの人件費が必要となります。

一方、イカは足と一緒に内臓(ワタ)を引き抜く工程で墨汁嚢を取り出す事ができ、素人でも練習すれば取り出す事は容易です。

上記の事をまとめた上で、もしタコ墨パスタがあるとすれば、それは1人前7,000~10,000円といったところが妥当でしょうか。

セレブであればよいですが、一般庶民にはこんな値段のパスタは手がだせませんし、そんなパスタを出す料理店は人件費、食材費などが積み重なり、赤字となっていまうでしょう。

まとめ

タコ墨はイカ墨と比較して、旨味成分であるアミノ酸が多く含まれており、栄養素も高いので料理に使われてもおかしくはありません。

但し、タコ墨はサラッとしており食材と絡みにく、一匹からとれる墨の量はイカの10分の1の為、タコが大量に必要となる、タコの墨汁嚢を取り出すには高い技術力をもった職人を雇う必要があるなど、食材としてあつかうには様々なデメリットが存在しています。

一方、イカ墨はドロっとして食材と絡みやすい、一匹からとれる墨でパスタ2人前は作れる、墨汁嚢を取り出すのは簡単と食材としてのメリットが多く存在しています。

店を経営している側からすると、コストパフォーマンスが非常に高いタコ墨を扱う事は無い為、タコ墨パスタなどの「タコ墨料理」を扱っているお店がないのです。